先日、九州の税理士仲間からこんな話を聞きました。

「63歳の社長が相談に来たとき、もう手遅れだったんです。法人名義のビルが3棟あって、評価額は8億円近い。でも対策できる時間が、ほとんど残っていなかった」

不動産を持つ経営者の方に、今日はぜひ読んでいただきたい内容です。

5年間先送りにしたツケ、相続税3億円

福岡で飲食チェーンを経営する佐藤社長(仮名・62歳)。法人名義の賃貸ビルを3棟所有し、相続税評価額の合計はおよそ8億円でした。息子への承継は「来年こそやろう」と毎年先送りにして、気づけば5年が過ぎていました。

67歳のとき、突然の体調不良で入院。退院後に税理士へ相談しましたが、返ってきた答えは「もう時間がありません」という言葉だったといいます。

小規模宅地等の特例も、生前贈与も、法人化による評価圧縮も、すべて「今からでは間に合わない」。試算された相続税はおよそ3億円。手元の現金では到底足りず、長年守ってきたビルを売却するほかありませんでした。

なぜ対策には3〜5年かかるのか

相続税の節税は、時間がなければ成立しません。主な対策の準備期間を見ると、その理由がよくわかります。

生前贈与は毎年110万円の非課税枠を使い続けることで効果が積み上がる手法です。ただし相続発生前7年以内の贈与は財産に持ち戻されるルール(2024年以降は7年に延長)があるため、効果を最大化するには5〜10年前から継続することが前提になります。

小規模宅地等の特例は、事業用・居住用の土地の評価額を最大80%減額できる強力な制度です。ただし事前に満たすべき要件が複数あり、急病後に条件を整えようとしても手遅れになるケースが多い。

法人化による評価圧縮も同様です。不動産管理会社を設立して賃料収入を法人に集め、株式評価を下げていく手法は、設立・移転・実績の積み上げで最低でも2〜3年かかります。

「元気なうちにしか動けない」——これが不動産承継の最大の前提条件です。

間に合う社長と間に合わない社長の分かれ目

失敗するパターンに共通しているのは、「まだ自分は元気だから大丈夫」という思い込みです。男性経営者が60代で急病・入院するリスクは、統計的に決して低くはありません。佐藤社長のケースも、62歳の段階で動き始めていれば、複数の対策を組み合わせて相続税を大幅に圧縮できたはずです。

対照的に、55歳前後から相続対策に着手した経営者は選択肢が豊富です。生前贈与・法人化・生命保険の活用を計画的に組み合わせることで、相続税評価額を数億円単位で圧縮した実例は珍しくありません。

早く動くほど選択肢が増え、節税効果も大きくなる。それが不動産承継の鉄則です。

まず「自分の相続税評価額」を確認する

不動産を持つ経営者の方が今すぐできることは、保有不動産の相続税評価額を試算してもらうことです。

「だいたい時価の7割」とよく言われますが、実態はケースによって大きく違います。路線価の低いエリアでは4〜5割になることもあれば、借地権・底地の関係や建物の状況によっては時価を上回ることもある。正確な数字を把握しないまま「まあ大丈夫だろう」と思っているうちに、気づけば手遅れになっているのが典型的な失敗パターンです。

相続税の概算額が出れば、どの対策を優先すべきか、何年以内に動かなければいけないかが見えてきます。対策の優先順位は状況によって異なるため、税理士に依頼して自分の数字を把握することが、すべての出発点です。


60代に入ったら、不動産承継は「5年以内に着手すべき最優先事項」と捉えてください。まだ相続税評価額の試算を一度もしていないなら、今期中に税理士へ相談することを強くおすすめします。動き始めるのに、早すぎるということはありません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。