先日、ある製造業の社長からこんな連絡が入りました。「税務署から調査の通知が届いたんですが…」という、あの重い一言です。

業績が好調だったので役員報酬を期の途中で増やしたのだそうです。「まさかそれだけで調査が入るとは思っていなかった」と、電話越しに声が沈んでいました。

役員報酬には、サラリーマンの給与とは異なる厳格なルールがあります。このルールから外れると、増やした分が損金として認められないだけでなく、税務署の目に留まりやすくなります。特によくあるミスが3つあって、それが重なると調査確率が3倍以上になるというのが、実態です。

「業績がいいから増やした」が命取りになる理由

役員報酬を損金にするための基本ルールが、定期同額給与です。

法人が役員報酬を損金算入するには、原則として事業年度開始から3ヶ月以内に金額を決め、その後は期末まで毎月同額を払い続ける必要があります。この「期首3ヶ月の窓口」を過ぎてから金額を変えると、増額した分は全額損金不算入になります。

年間120万円の増額であれば、実効税率30%として約36万円の税負担増です。「ちょっと増やしただけ」という感覚でも、思った以上に大きな数字になります。しかも、これが税務署にとって「確認すべき案件」のフラグになります。

役員ボーナスは「事後」では手遅れ

2つ目のミスが、届出なしの役員賞与です。

役員に賞与を支給して損金にするには、事前確定届出給与という手続きが必要です。支払う金額・日付を事前に税務署へ届け出て、届出どおりに支払って初めて損金になります。

決算前に「今期はよく頑張ってくれたから」と急遽支払うケースが非常に多いのですが、その時点ではもう手遅れです。届出なしに支払った役員賞与は、全額損金不算入になります。賞与を出すつもりなら、事業年度の早い段階から税理士と計画を立てておくことが必須です。

「業績に見合っているか」が見られている

3つ目は、会社の規模や業績と不釣り合いな高額報酬、いわゆる過大役員給与の問題です。

同業他社と比較して明らかに高水準な役員報酬は、適正水準を超えた部分が損金不算入となります。売上・利益・業種・会社の規模を総合的に判断されるため、明確な基準があるわけではありませんが、業績が急伸したタイミングで一気に報酬を引き上げると、リスクが高まります。

「会社が儲かったぶんを報酬で還元した」という感覚は経営者として自然ですが、税務上の視点では要注意です。

3つが重なったとき、何が起きるか

怖いのは、これらが単独で起きるより、複数が同時に起きるケースです。

期中の増額(①)、届出なしの賞与(②)、業績と比べた高額報酬(③)——この3つが重なると、税務署の目に留まる確率が単独の場合の3倍以上になると言われています。

年商3億円の製造業を経営する田中社長(仮名)の事例では、業績が好調だったことを受けて期の途中に役員報酬を500万円増額しました。翌年、税務署から調査の通知が届き、最終的に重加算税35%を含む追徴課税が370万円を超えました。「そんなルールは知らなかった」という事情は、税務署には通じません。

役員報酬の変更は「期首3ヶ月」が唯一の窓口

役員報酬を見直せるタイミングは、原則として期首から3ヶ月以内だけです。この窓口を逃すと、臨時改定事由(役員の職位変更など)がない限り、期末まで変更できません。

決算が終わったタイミングで、次期の報酬額を税理士としっかり相談しておきましょう。業績見通し・借入返済・手元資金のバランスを見ながら、適正な水準を設定することが大切です。

「去年と同じでいいか」で済ませず、毎期きちんと見直す習慣をつけておくことが、税務調査リスクを下げる一番の近道です。今期の決算が近い方は、早めに動いておくのをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。