先日、都内で賃貸マンションを複数棟持つ60代の社長から、こんな相談を受けました。

「不動産を子どもに残したいんだけど、相続税がいくらになるか試算したら、とても払いきれる金額じゃなかった。何か手はありますか?」

このご相談、じつはここ数年でぐっと増えています。不動産価格の上昇と相続税の基礎控除縮小が重なって、「気づいたら億単位の相続税がかかる状態になっていた」という社長が少なくないんです。

そこで今回は、法人名義で不動産を持つことで相続税を合法的に抑える仕組みを、できるだけわかりやすくお伝えします。


個人名義のままだと何が問題なのか

まず前提として、個人名義の不動産は相続財産として「不動産評価額」のまま課税されます。路線価や固定資産税評価額をベースにするとはいえ、1億円の物件なら数千万円規模の評価額が相続税の計算に乗ってくるわけです。

現行の相続税は、法定相続人が2人なら基礎控除が4,200万円。それを超えた部分に10〜55%の税率がかかります。不動産をいくつか持っている社長なら、あっという間に数千万円の相続税が発生する計算になります。

ここで「じゃあ、法人に移したらどうなるの?」という話が出てきます。


仕組み①:「不動産」が「株式」に変わる

法人が不動産を所有すると、相続税の計算で何が変わるか。

シンプルに言うと、相続財産の対象が「不動産そのもの」から「会社の株式」に変わります

不動産を個人で持っていれば、その評価額がダイレクトに相続税の計算に使われます。でも法人名義にすれば、相続するのは「その法人の株」です。株の価値は、非上場株式の評価方法(純資産価額方式や類似業種比準方式)で計算されるため、不動産の評価額とはまったく異なる数字になります。

具体例を出しましょう。時価1億円の収益物件を法人が所有している場合、その法人株式の評価額は会社の財務内容や収益力によりますが、最大で8割以上圧縮されるケースもあります。つまり相続税の計算に使われる金額が1億円ではなく、2,000万円以下になることもあるんです。

個人名義と法人名義の差額が数千万円規模になることも珍しくありません。この差は、相続税率を掛ければそのまま「節税額」になります。


仕組み②:賃料収入を会社に留め、株価の上昇を抑える

不動産を法人に移すだけでなく、賃料収入を法人内にコントロールすることも重要です。

個人で不動産を持っていると、家賃収入はそのまま個人の所得になります。所得税の最高税率は45%(住民税合わせると55%)ですから、稼げば稼ぐほど税金がかさむ構造です。

一方、法人が賃料を受け取れば、法人税率(中小企業なら実効税率で概ね23〜25%前後)で課税されます。個人で受け取るよりも手元に残る金額が増えるケースが多い。

ただし、ここで気をつけたいのが「内部留保が増えると株価も上がる」という点です。法人の純資産が増えれば、相続時に評価する株価も上がりますから、賃料収入の使い方や役員報酬の設計はセットで考える必要があります。


仕組み③:家族を役員にして所得を分散する

3つ目は、家族を役員として迎え、給与を分散する方法です。

法人にした場合、配偶者や子どもを役員にして役員報酬を支払うことができます。たとえば社長一人が年収2,000万円を受け取るより、奥様と後継者に500万円ずつ分散するほうが、家族全体での所得税・住民税の総額はぐっと下がります。

さらに、給与をもらう家族が社会保険に加入できるメリットもあります。将来の年金受給額が増えるという副次的な効果も見逃せません。

ただし、役員報酬は「定期同額給与」のルールがあり、期中に勝手に変更できません。また、実態のない役員報酬は税務調査で否認されるリスクがあります。「名義だけ役員」にならないよう、役員としての業務実態を整えることが前提です。


設計ミスが逆効果になるパターン

ここまで読んで「すぐに法人化しよう」と思った方、少しだけ立ち止まってください。

法人への不動産移転には、不動産取得税・登録免許税・譲渡所得税がかかります。個人から法人に「売る」形になるため、含み益がある物件では譲渡所得が発生し、一時的に多額の税金を払うケースもあります。

また、法人を作れば法人税の申告コスト・税理士費用・社会保険料が増えます。規模が小さいと節税効果よりコストが上回ることも。

「法人化すればとにかくトクする」ではなく、保有物件の規模・含み損益・家族構成・将来の事業承継計画をセットで検討しないと、逆に損をする可能性があります。


今すぐ確認してほしい3つのポイント

最後に、今日の内容を振り返って確認してみてください。

  • 個人名義の収益不動産を複数持っていて、相続税の試算をしたことがない
  • 家賃収入が個人の所得として毎年数百万円以上加算されている
  • 後継者や配偶者への資産承継を「いつかやろう」と先延ばしにしている

ひとつでも当てはまるなら、まず現状の相続税額をざっくり試算するところから始めてみてください。「思ったより多い」と気づいた社長ほど、早めに動いた結果、数千万円単位の節税につながっています。

法人スキームは一度設計してしまえば長期間にわたって効果が続きます。でも設計が複雑な分、必ず相続・不動産に詳しい税理士と一緒に進めることを強くおすすめします。「知り合いに頼んだら詳しくなかった」という失敗談もよく聞きますので、専門家選びも慎重に。

まだ不動産の相続対策を何もしていないなら、今期中に一度、専門家に相談する時間を作ってみてください。動き出すのに、早すぎることはありません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。