先日、都内で賃貸ビルを個人名義で保有している社長から、こんな相談を受けました。「相続のことを考えると夜も眠れなくて」。その一言が、すべてを物語っていました。
不動産を持つ社長にとって、相続税は避けられないテーマです。しかし「名義を変えるだけで数千万円変わる」という事実を、きちんと把握している方は意外と少ないのです。
個人名義だと、評価額がそのままのしかかる
不動産の相続税評価は、路線価をベースに計算されます。たとえば、時価3億円の都内賃貸ビルであれば、路線価評価額はおよそ2.4億円前後になることが多いです。
個人名義で保有している場合、この2.4億円が相続財産の評価額としてそのまま課税対象になります。配偶者控除や基礎控除を差し引いても、億単位の評価額が残れば、相続税は数千万円規模になることも珍しくありません。
評価が大きいほど税率も上がる累進構造ですから、都市部に収益物件を持つ社長ほどダメージが大きくなります。
法人名義だと、評価の「土俵」が変わる
では、同じ不動産を法人名義で保有していたらどうなるか。ここが大きなポイントです。
法人が不動産を所有している場合、相続する財産は「不動産そのもの」ではなく「法人の株式」になります。この株式の評価には純資産価額方式が使われることが多いのですが、計算の過程で法人税等相当額(おおむね37%)が控除される仕組みになっています。
結果として、実質的な課税評価額が個人保有と比べて30%程度圧縮されるケースが生まれます。3億円のビルで単純に比較すると、その差は数千万円に達することもあります。同じ物件を持っているのに、名義が違うだけでこれほどの差が出るのです。
「3年縛り」を知らずに動くと逆効果
ただし、法人名義にすれば必ず節税できるかというと、そう単純ではありません。
法人が不動産を取得してから3年以内に相続が発生した場合、株式評価において不動産は時価で評価されるというルールがあります。つまり、取得したばかりの段階では、法人名義の圧縮効果が得られないのです。
「すぐに節税できる」と焦って法人移転を進めると、この3年ルールの落とし穴にはまります。また、個人から法人へ不動産を移す際には譲渡所得税や不動産取得税も発生するため、初期コストと節税効果を丁寧に試算することが欠かせません。
効果が出やすい人、出にくい人
法人名義での保有が特に有効なのは、評価額の大きい都市部の物件を持っていて、かつ相続まである程度の時間的余裕がある方です。3年ルールをクリアした上で効果を最大化するためには、少なくとも10年単位の視野で動くのが理想です。
賃貸収入を役員報酬として分散できる所得分散効果もあるため、節税の恩恵は相続税だけにとどまりません。
一方、高齢になってから急いで法人移転を進めると、3年ルールがネックになりやすく、コストが効果を上回るケースも出てきます。
今から動いておく価値がある
相続税対策は、「まだ先の話」と思っているうちに選択肢が狭まっていく分野です。60代の社長であれば、今から動き始めれば十分に間に合います。
まだ個人名義で収益不動産を保有しているなら、まず相続税シミュレーションを税理士に依頼してみてください。数字を見れば、法人化を急ぐべきかどうかが自然と見えてくるはずです。名義一つで変わる数千万円、放置するにはもったいない話です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。