先日、資産管理会社を持つ製造業の社長から、こんな相談を受けました。「相続税のシミュレーションをしたら、想定の倍近い数字が出てきて…。不動産を法人に移すと、何か変わりますか?」

資産の多くが不動産で構成されている方にとって、相続税は切実な問題です。特に会社を持つ社長は、個人資産と法人の株式が絡み合うことも多く、何もしないままでは「相続のたびに資産が目減りしていく」という状況になりがちです。

今回は、その打ち手として注目されている「法人保有」の仕組みを、できるだけ平易にお伝えします。

個人で持つと、路線価がそのまま課税対象になる

個人が不動産を持っている場合、相続税の計算には「路線価」が使われます。路線価は時価の80%程度に設定されることが多いため、ある程度の節税効果はあります。

ただし、それだけです。路線価がそのまま相続財産として計算され、税率がかかってきます。

たとえば時価2億円の土地なら、路線価ベースで約1億6,000万円が課税対象。適用税率が40%の水準であれば、数千万円規模の税負担になることもあります。

法人保有に切り替えると、評価のロジックが変わる

ここが核心です。資産管理会社などの法人で不動産を保有すると、社長が直接「不動産」を相続するのではなく、「その不動産を持っている会社の株式」を相続することになります。

流れを3ステップで整理しましょう。

① 法人(資産管理会社)が不動産を取得する 個人で持っている不動産を法人に移す、あるいは最初から法人名義で取得します。

② 社長はその法人の株式を保有する 不動産の持ち主は法人になるため、社長の手元にあるのは「法人の株式」です。

③ 株式評価の計算で法人税相当37%が控除される 非上場株式は「純資産価額方式」で評価されることが多いのですが、この計算では法人税相当額(37%)が控除されます。1億6,000万円の不動産が法人内にあっても、株式評価に反映されるのは約1億円程度ということになります。

個人保有との比較で、この段階ですでに評価額に大きな差が生まれています。

賃貸物件なら、評価減がさらに重なる

法人が保有する不動産を賃貸に出している場合、貸家建付地・貸家としての評価減も使えます。

賃貸用の土地(貸家建付地)は、自用地と比べて評価が下がります。借地権割合・借家権割合によって、時価の60〜70%程度まで圧縮されるケースもあります。

先ほどの法人税相当37%控除に加えて、貸家評価減が重なると、最終的な相続税の課税対象額は個人保有と比べて大幅に小さくなります。「8割削減」というのは、こうした複数の評価減が積み重なった条件のよいケースを指しています。当然、物件や設計によって結果は大きく異なります。

2024年改正の落とし穴:区分マンションは要注意

ただし、2024年1月以降、区分所有マンションについては評価方法が見直されています。

これまでは実勢価格と路線価評価の乖離を活用した節税が広く使われていましたが、改正後は評価が実勢価格の60%水準まで補正されるルールになっています。

区分マンションを法人に移す、あるいは新規購入して法人保有する場合は、改正後のルールを前提に試算し直す必要があります。「数年前に聞いた話」をそのまま信じると、想定していた効果が出ないことがあります。一棟ものか区分かによって使える手が変わるため、物件の種類の選択が非常に重要です。

「とりあえず法人に入れる」は危険

法人不動産による相続税削減は、単に「法人を作って不動産を入れればいい」というほど単純ではありません。

法人に不動産を移す際に不動産譲渡税が発生することもありますし、法人の収益と経費のバランスが崩れると、別の税負担が増えるケースもあります。また、法人の株主構成をどう設計するかによっても、最終的な評価額は変わってきます。

設計の細部が、節税効果を左右します。

「相続なんてまだ先の話」と思っている社長も多いですが、法人保有の設計は早ければ早いほど効果が出やすい対策です。不動産の取得タイミングや法人設立の時期によって、使える手段が変わってくるからです。

まだ個人名義で不動産を持ったまま何も手を打っていないなら、今期の決算が終わったタイミングで、保有不動産の名義と評価額を一度棚卸しするところから始めてみてください。数字を並べるだけで、打つべき手が見えてきます。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。