先日、都内に収益マンションを3棟お持ちの60代社長から、こんな話を聞きました。「毎年100万円ずつ子供に贈与してきました。もう10年になります。これって相続税対策になってますよね?」

その言葉に、少しドキッとしました。2024年から、制度が根本的に変わっているからです。昔の感覚のまま贈与を続けている方は、知らないうちに対策が「骨抜き」になっている可能性があります。

「3年遡及」は終わった。今は「7年」が壁

相続税の計算では、亡くなる前の一定期間に行った贈与は、相続財産に組み戻されます。以前は「死亡前3年以内」が対象でしたが、2024年の税制改正でこれが7年に延長されました。

つまり、今日から贈与を始めても、7年間は「相続財産に戻されるリスク」が消えません。毎年110万円の暦年贈与を続けていても、7年以内に亡くなった場合、その全額が相続財産に加算されます。

せっかく10年間コツコツ積み上げた贈与でも、最後の7年分は「なかったこと」になりうる。旧3年ルールで計算していた方には、かなりの想定外です。

贈与策が本当の意味で「有効に機能し始める」のは、今から7年以上先の話。逆に言えば、今すぐ動き始めないと、時計はどんどん遅れていくわけです。

不動産の組み替えで評価額を大きく圧縮する

もう一つの主力対策が、更地や自用地をアパートに組み替えるというものです。これが相続税に効く理由を、少し整理しておきます。

相続税の対象となる不動産の評価は、路線価ベースで計算されます。更地のままだと路線価通りの評価が乗ってきますが、アパートを建てて「貸し付けている土地」にすると、貸家建付地として評価が圧縮されます。建物自体も固定資産税評価額をベースに計算され、さらに借家権割合が差し引かれます。

例えば、路線価評価が1億円の土地を例にとりましょう。更地のままなら1億円が課税対象ですが、アパートを建てると評価額が6,500〜7,000万円程度に下がることが多いです。これが複数の土地に及ぶと、課税財産全体の評価差は3,000万円を超えるケースも珍しくありません。

課税財産が3億円前後の水準なら、相続税率は40〜45%が適用されます。評価額が3,000万円圧縮されれば、納税額にして1,200〜1,400万円の違いになります。これは決して小さくない数字です。

なぜ「5年前から」という言葉が出てくるのか

「では今から動けばいいですよね」と言いたくなりますが、実はそう簡単ではないのが相続対策の難しさです。

アパートの建築から入居者が安定するまでに、最低でも2〜3年かかります。法人(資産管理会社)を設立して不動産収益を移転するスキームも、税務上の問題なく機能させるには設立・資産移転・賃貸実績の積み上げで数年単位の時間が必要です。

さらに、相続が近い将来に想定されるほど、急な大型贈与や駆け込みの不動産購入は税務調査で「節税目的の行為」として否認されるリスクが高まります。形式的に対策を講じても、実態が伴っていなければ意味がありません。

こうした事情を積み重ねると、余裕を持って対策を完成させるには「5年前から動き始める」というのが現実的なラインになります。5年前に動き出した人と、何もしなかった人では、いざ相続が発生したときの税額が3,000万円以上変わることも、十分ありえる話です。

今日が、一番早い起点

「うちはまだ早い」「あと数年してから考えよう」。そう思っているうちに、使える時間はどんどん削られていきます。

特に、7年ルールに変わった今は、贈与を始めるタイミングが早ければ早いほど有利です。今日から始めた暦年贈与は、7年後にようやく「完全に効いてくる」状態になります。7年という時間は、思っているよりずっと長いのです。

まだ相続対策に手をつけていない不動産オーナーの社長は、ぜひ一度、信頼できる税理士に「今の資産の中で評価圧縮できるものはどれか」を棚卸ししてもらうことをおすすめします。実際の試算を数字で見せてもらえれば、動く気にもなるはずです。

今日が、一番早い起点です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。